特許 令和4年(行ケ)第10081号「ゴルフクラブ用シャフト」(知的財産高等裁判所 令和5年7月13日)
【事件概要】
本件各発明は発明の詳細な説明に記載したものではないとして、特許取消決定が維持された事案。
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【争点】
本件各発明の構成1ないし5は、本件明細書の記載により当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のものといえるか。
【結論】
(3) 本件各発明の課題
…本件各発明の課題は、「ねじり剛性が高い繊維強化樹脂製のゴルフクラブ用シャフト(ロートルクの繊維強化樹脂製のゴルフクラブ用シャフト)であって、スイングの安定性が高く、プレーヤーのスイングスピードや力量に左右されることなく飛距離の安定性と方向安定性の双方に優れたものを提供すること」(以下「本件課題」という。)であると認めるのが相当である。
(4) 決定取消事由の1(構成2ないし5に係るもの)について
イ 構成3について
(ア) 0.5≦B/(B+S)について
a バイアス層の合計重量(B(g))をバイアス層の合計重量とシャフト全体にわたって位置するストレート層…の合計重量の和(B(g)+S(g))の50%以上とすることにより得られる効果等に関し、本件明細書…には、「本発明のゴルフクラブ用シャフトは、…0.5≦B/(B+S)≦0.8・・・(1)を満たすことが重要である。(1)は、技量が高いゴルファーやスイングスピードが速いゴルファーにも対応できるために必要なトルクTq(°)を生み出す要素を示している。つまり、(1)を満たさないゴルフクラブ用シャフトは、シャフトが捩じれすぎたり、または捩じれないがためにシャフトが折損してしまう原因につながる。」との記載…があり、また、本件効果が得られたとされる実施例1及び本件効果が得られなかったとされる比較例1における各B/(B+S)がそれぞれ0.6及び0.4であるとの記載…がある。…これらの記載は、本件各発明におけるB/(B+S)に係る0.5との数値が実施例1における0.6及び比較例1における0.4の中間値であることを含め、バイアス層の合計重量をバイアス層の合計重量とストレート層の合計重量の和の50%以上とすることによりなぜ本件課題が解決されるのかについて適切に説明するものとはいえず、…構成3のうちバイアス層の合計重量をバイアス層の合計重量とストレート層の合計重量の和の50%以上とするとの点については、本件明細書の…記載により…当業者が本件課題を解決できると認識できる範囲のもの…ということはできない。
【コメント】
裁判所は、本件明細書の記載は、構成3に係るパラメータB/(B+S)の下限値を0.5とすることにより、なぜ本件課題が解決されるのかについて適切に説明するものとはいえないと判断しただけでなく、当該パラメータの上限値並びに構成2、4及び5に係るパラメータの上限値及び下限値についても、それらを特定の値にすることにより、なぜ本件課題が解決されるのかについて適切に説明するものとはいえないと判断した。
本件各発明は、訂正が認められた結果、構成1ないし5を備えることとなったが、訂正前の請求項1に係る発明は、構成1ないし5のうち、構成3しか備えていなかった。本件明細書には、構成1ないし5を全て備え、本件効果(プレーヤーのスイングスピードや力量に左右されることなく飛距離の安定性と方向安定性の双方に優れたゴルフクラブ用シャフトが得られる)を奏するとされる実施例1と、構成1及び5を備え、本件効果を奏しないとされる比較例1とが記載されているだけなので、構成3と本件効果との関係は、本件明細書の記載により裏付けられていないことが明らかだったように思われる。そもそも訂正前の請求項1に係る発明が特許されたこと自体、疑問とせざるを得ず、本件各発明についての特許が特許異議の申立てを受けて取り消され、裁判所も特許取消決定を維持したことは、妥当な判断といえる。