特許 令和4年(行ケ)第10064号「微細結晶」(知的財産高等裁判所 令和5年7月13日)
【事件概要】
無効審判において進歩性ありと判断した審決を知財高裁が支持した事例である。
【争点】
下記の平均粒径と結晶化度を限定した公知の化合物が容易に想到し得るか。
(請求項1)
0.5~20μmの平均粒径を有し、結晶化度が40%以上である
(化1)
で表される(E)-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-1,3-ジエチル-7-メチル-3,7-ジヒドロ-1H-プリン-2,6-ジオンの微細結晶。
【結論】
イ 化合物1の結晶の平均粒径を小さくし、かつ、化合物1の結晶の結晶化度を大きくすることについて
(ア)・・・経口投与される水難溶性の薬物の溶解性を高める方法として、・・・粉砕等により結晶の粒子径を小さくすること、結晶形を不安定型又は準安定型に変えること、結晶の結晶化度を低下させることなどは、本件優先日当時の周知技術であったと認められる。
(イ)・・・薬物の安定性を高める方法として、結晶の結晶化度を高めること、遮光、湿気の遮断等を目的として薬剤に保護コーティングを形成すること、遮光を目的として遮光剤(酸化チタン)を含むコート液をコーティングすることなどは、本件優先日当時の周知技術であったと認められる。
(ウ)しかしながら、・・・本件優先日当時、非晶質の薬物の方が一般に溶解性が高いとの技術常識が存在し、そのため、水難溶性の薬物の溶解性を改善するとの目的で、かえって結晶化度を低くすることが一般に行われていたものと認められるところ、前記(ア)及び(イ)のとおり、本件優先日当時、経口投与される水難溶性の薬物の溶解性を高めるための周知技術として、結晶の粒子径を小さくすること以外の方法も存在し、また、薬物の安定性を高めるための周知技術として、結晶の結晶化度を高めること以外の方法も存在していたのであるから、化合物1の溶解性及び安定性を高めるとの課題を認識していた本件優先日当時の当業者において、化合物1の溶解性を追求するとの観点から、経口投与される水難溶性の薬物の溶解性を高めるための周知技術(結晶の粒子径を小さくするとの周知技術)を採用し、かつ、化合物1の安定性を追求するとの観点から、薬物の溶解性を低下させる結果となり得る周知技術(結晶の結晶化度を大きくするとの周知技術)をあえて採用することが容易に想到し得たことであったと認めることはできない。
【コメント】
化合物1の溶解性を高める観点から、結晶の粒子径を小さくするという周知技術を採用する一方で、化合物1の安定性を高める観点からは、薬物の溶解性を低下させる結果となり得る周知技術、すなわち、結晶の結晶化度を大きくするという周知技術を採用するという、効果の相反する周知技術を敢えて組み合わせて使用するというのは合理的ではありません。
経口投与される水難溶性の薬物の溶解性を高めるための周知技術および薬物の安定性を高めるための周知技術には、上述のように複数の選択肢がありますので、敢えて、相反する周知技術を組み合わせて使用する動機づけはなかったというのが裁判所の判断です。