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知財判決ダイジェスト

特許 令和4年(行ケ)第10037号「空調服の空気排出口調整機構、空調服の服本体及び空調服」(知的財産高等裁判所 令和5年2月7日)

【事件概要】
 本件発明3は本件出願前に公然実施をされた発明(本件公然実施発明)及び本件出願前に頒布された刊行物に記載された発明(甲30発明’)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとして、特許無効審判の請求不成立審決が取り消された事例。
判決要旨及び判決全文へのリンク

【争点】
 空調服の技術分野に属する本件公然実施発明に、介護用パンツの技術分野に属する甲30発明’を適用する動機付けがあるか。

【結論】
 …相違点1に係る本件発明3の構成の容易想到性の判断に当たっては、空気排出口の開口度を調整するための手段…に係る次の各点…を検討すれば足りる…。

a 本件発明3の「第一調整ベルト」は、「第一取付部を有」するのに対し、本件公然実施発明の「紐1」は、そのような構成を備えない点

b 本件発明3の「第二調整ベルト」は、「前記第一取付部の形状に対応して前記第一取付部と取り付けが可能となる複数の第二取付部を有」するのに対し、本件公然実施発明の「紐2」は、そのような構成を備えない点

c 空気排出口の形成に関し、本件発明3は、「前記第一取付部を前記複数の第二取付部の少なくともいずれか一つに取り付けることで」形成するのに対し、本件公然実施発明は、そのような構成を備えない点

d 空気排出口の開口度に関し、本件発明3は、「複数段階の予め定められた」ものであるのに対し、本件公然実施発明は、そのような構成を備えない点

 本件公然実施発明は、空調服…の技術分野に属する…のに対し、…甲30発明’は、介護用パンツの技術分野に属する…。空調服と介護用パンツは、…いずれも身体の一部を包んで身体に装着する「被服」であるという点…では、関連性を有する…。

 …本件出願日当時、被服の技術分野においては、2つの紐状部材を結んでつないで長さを調整することや、そもそも2つの紐状部材を結んでつなぐこと自体、手間がかかって容易ではないとの周知かつ自明の課題が存在したものと認められる…。

 そうすると、被服の技術分野に属する本件公然実施発明の構成…自体からみて、…本件公然実施発明に接した…当業者は、上記の課題を認識する…。

 …甲30に装着の容易さについての記載…があることや、…周知かつ自明の課題が…被服の技術分野において存在したとの事実も併せ考慮すると、…当業者は、甲30発明’…を2つの紐状部材を結んでつないで長さを調整することが手間で容易ではないとの課題を解決する手段として認識する…。

 …本件公然実施発明から認識される課題と甲30発明’が解決する課題は、共通する…。

 …被服の技術分野に属する本件公然実施発明に接した…当業者は、空気排出スペースの大きさを調整するための手段である「紐1」及び「紐2」を結んでつないで長さを調整することが手間で容易でないとの課題を認識し、当該課題を解決するため、同じ被服の技術分野に属する甲30発明’を採用するよう動機付けられたものと認める…。

【コメント】
 被告(特許権者)は、甲30に記載された技術事項は空調服の空気排出口に関するものでないから、技術分野の関連性は薄いと主張したが、裁判所は、空調服も被服である以上、空調服に係る当業者は被服に係る各種の先行技術を参酌するのが通常であるから、「空調服の空気排出口」という細部にわたってまで一致しなければ技術分野の関連性が薄いと解するのは狭きに失するとして、被告の主張を認めなかった。

 裁判所は、審決で認定された本件発明3及び本件公然実施発明の空気排出口調整機構の構成を更に検討し、両発明の間には空気排出口調整機構について更なる一致点があることを指摘して、容易想到性の判断に当たって検討すべき点は上記a~dの各点のみであると認定した。そして、裁判所は、上記a~dの各点に係る構成が被覆一般における周知かつ自明の課題を解決するものであることから、本件公然実施発明に甲30発明’を適用する動機付けを認めたものと解される。

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