特許 令和3年(行ケ)第10140号「電鋳管の製造方法及び電鋳管」(知的財産高等裁判所 令和 4年11月16日)
【事件概要】
この事件は、特許無効審判の請求を不成立とした審決の取消しを求める事案である。
裁判所は審決の一部を取り消した。
【争点】
製造方法による特定を含む本件発明6及び訂正発明9が明確であるか否か。
【結論】
物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合であっても、…、出願時において当該製造方法により製造される物がどのような構造又は特性を表しているのかが、特許請求の範囲、明細書、図面の記載や技術常識より一義的に明らかな場合には、第三者の利益が不当に害されることはないから、不可能・非実際的事情がないとしても、明確性要件違反には当たらないと解される。
特許請求の範囲の記載から本件発明6及び訂正発明9の製造方法により製造された電鋳管の内面精度が明らかでないことはいうまでもなく、また、本件明細書には、本件発明6及び訂正発明9の製造方法により製造された電鋳管の内面精度について、何ら記載も示唆もされていない。
そして、本件明細書には、細線材を除去する方法として、…が記載されている…が、これらの方法と、製造される電鋳管の内面精度との技術的関係についても一切記載がなく、ましてや、本件発明6及び訂正発明9の製造方法…が、他の方法で製造された電鋳管とは異なる特定の内面精度を意味することについてすら何ら記載も示唆もない。さらに、上記各方法により内面精度の相違が生じるかについての技術常識が存在したとも認められない。
そうすると、本件発明6及び訂正発明9の製造方法により製造された電鋳管の構造又は特性が一義的に明らかであるとはいえない。
以上のとおりであるから、本件発明6及び訂正発明9が明確であるといえるためには、本件出願時において、本件発明6及び訂正発明9の電鋳管をその構造又は特性により直接特定することについて不可能・非実際的事情が存在するときに限られるところ、被告はこのような事情が存在しないことは認めている。
よって、本件発明6及び訂正発明9は明確であるということはできず、取消事由5は理由がある。
【コメント】
被告は、「本件発明6及び9の製造方法により製造された電鋳管の構造又は特性は、本件明細書の記載から理解できるものであり、文献の記載や試作分析報告書の内容も参酌すれば、良好な内面精度を有するという構造又は特性を表していることが、特許請求の範囲及び本件明細書の記載から一義的に明らかである」旨主張したが、裁判所はそうとはいえないとして被告の主張を採用しなかった。