特許 令和2年(行ケ)第10124号「裏刷り用溶剤型グラビア印刷インキ組成物の製造方法および積層体の製造方法」(知的財産高等裁判所 令和3年12月1日)
【事件概要】
この事件は、特許を取消した異議決定の取消しを求めた事案である。
裁判所は原告の請求を棄却した。
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【主な争点】
本件発明1と甲1発明1との相違点2が当業者に容易想到であるか否か。
【結論】
相違点2に係る本件発明1の構成は、ポリウレタンウレア樹脂の原料である二塩基酸としてバイオマス由来のセバシン酸を用いること、印刷塗膜中のバイオマス度を3~40質量%とすることであるところ、…、甲1文献には、ポリウレタンウレア樹脂組成物の原料をバイオマス由来のものとすることを直接的に示唆又は開示する記載は存しない…。
しかしながら、…、本件優先日当時、印刷インキの技術分野においても、製品のバイオマス度を10質量%以上に高めることが一般的な課題とされていたといえる。
また、…、本件優先日当時、印刷インキの技術分野において、樹脂の原料としてバイオマス由来のセバシン酸を用いることは、周知技術であったといえる。
以上の各事情に加え、甲1文献には、甲1発明1のポリウレタンウレア樹脂の原料である二塩基酸としてセバシン酸が挙げられていること…からすれば、この記載に接した当業者は、甲1発明1のグラビア印刷用ポリウレタンウレア樹脂組成物のバイオマス度を高めるための方法として、ポリウレタンウレア樹脂の原料の一つである二塩基酸としてバイオマス由来のセバシン酸を用いることを動機付けられるものといえる。
以上によれば、甲1文献に接した本件優先日時点における当業者は、…、相違点2に係る本件発明1の構成を容易に想到し得たものと認められる。
【コメント】
原告は、相違点2について、「バイオマス由来の原料を用いると印刷インキとしての性能が低下することが広く知られていたことなどから、当業者はポリウレタンウレア樹脂の原料をバイオマス由来のものに置き換えることを着想しない」旨主張したが、裁判所は、「ポリウレタンウレア樹脂組成物のインキ性能が一定程度損なわれることがあるとしても、当業者としては、これを補うために各成分の配合量の調整等を試みるのが通常」であり、「甲1発明1のポリウレタンウレア樹脂組成物の原料をバイオマス由来のものに置き換えようとすることが阻害されるものではない」として原告の主張を採用しなかった。