特許 令和2年(行ケ)第10123号「燃料電池システム」(知的財産高等裁判所 令和3年10月7日)
【事件概要】
本願発明は容易想到であるとした拒絶査定不服審判の審決が取り消された事例。
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【争点】
引用発明の「短絡制御回路」は、本願発明の「制御装置」に相当するか。
【結論】
本願発明の「制御装置」は、「燃料電池スタックの水和レベルを増加させる再水和間隔を提供するために」、「燃料電池スタックを通る空気流動を調節するように構成される」。「燃料電池スタックの水和レベルを増加させる再水和間隔を提供するために」は、膜/電極接合体(MEA)が好適に水和された状態とすべく、MEA内の水分量を積極的に増加させる目的をいう。「燃料電池スタックを通る空気流動を調節する」は、この目的のために、膜の含水量の低下等をもたらし得る空気流動を調節することをいう。
引用発明の「短絡制御回路」は、「燃料電池の負の水和降下現象を防止するために」、「燃料電池への燃料ガスの供給を停止する」。「負の水和降下現象を防止する」は、MEAにおける水和の損失が、熱の発生につながり、それがMEAの乾燥につながるといった状態を停止させる、又は抑制することをいう。「燃料電池への燃料ガスの供給を停止する」は、この目的のために、燃料電池の発熱につながる燃料ガスの供給を停止することをいう。
本願発明の「制御装置」と引用発明の「短絡制御回路」は、MEA内の水分量を積極的に増加させることを目的とするか、MEAにおける水和の損失等を停止させる、又は抑制することを目的とするにとどまるかという点で異なるとともに、燃料電池のカソード側で水分の低下につながり得る空気流動を調節するか、アノード側で熱の発生につながる燃料ガスの供給を停止するかという点でも異なる。
以上によると、本願発明の「制御装置」と引用発明の「短絡制御回路」が、「水和レベルを増加させる再水和間隔を提供するために」という点で一致しているとした点において、本件審決には誤りがある。
【コメント】
本願発明は、MEA内の水分量を積極的に増加させる制御をするのに対し、引用発明は、MEA内の水分量の減少を抑制する制御をするにとどまる。そのため、引用発明の制御は、本願発明の制御とは異なり、定期的に行う理由がない。「減少の抑制」は「増加」ではないことを見逃したことが、容易想到性の判断の誤りにつながった。