特許 令和2年(行ケ)第10103号「多色ペンライト」(知的財産高等裁判所 令和3年10月6日)
【事件概要】
特許無効審判において、甲1発明に甲2に記載された技術的事項を採用して本件発明1を容易に想到することができた、と判断した審決が取消された事例。
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【争点】
相違点1についての容易想到性の判断誤りの有無。
【結論】
甲1発明と甲2に記載された技術事項は、いずれもLEDを光源として光を放つ器具に関するものである点で共通するものの、甲1発明は筒全体が様々な色で発光するペンライトに係るものであるのに対して、甲2に記載された技術事項は、白色光又は可変色光を提供する照明装置に係るものである点で相違するから、近接した技術であるとはいえるとしても、技術分野が完全に一致しているとまではいえない。そのため、甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用して新たな発明を想到することが容易であるというためには、甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用することについて、相応の動機付けが必要である。
本件審決は、甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用する動機付けがあり、甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用して本件発明1を容易に想到することができたと判断する前提として、甲1発明に、「イエロー」とされる黄色の発色自体に問題が内在しているという課題があり、甲1発明に、演色性を向上させるという、甲2と共通の課題があると認定した。しかし、・・・本件審決が甲1発明の課題に関して認定する「演色性」は、甲2に記載された技術事項として認定された「演色性」、すなわち、照明された物体の色が自然光で見た場合に近いか否かという、一般的な意味での「演色性」とは異なる。・・・甲1発明には、甲2に記載された技術事項と共通する課題があるとは認められず、そのため、甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用する動機付けがあるとは認められない。
【コメント】
本件審決では、甲1でいう「演色性」の意味合いと甲2でいう「演色性」の意味合いの相違を見逃して課題の共通性を認定したことが、容易想到性の判断誤りにつながったようである。同じ用語であっても異なる意味合いで使用されることがある点に注意が必要であることを示す例といえる。
本判決の判示事項は、技術分野が完全に一致していないことを相応の動機付けが必要であることの理由としているように見え、その点も興味深い。