[意匠/日本]パッケージの意匠・商標の保護のエッセンス
1.立体形状
パッケージの立体形状を保護するには、意匠による保護と立体商標による保護を採りうる。以下においては、それぞれのアドバンテージと苦手な点を整理した上で、出願戦略としてどのように組み合わせるべきかを整理する。
■ 意匠のアドバンテージと苦手な点
① アドバンテージ
・立体商標と比較して登録性のハードルが低く、概ね8割の確率で意匠登録ができる。
・権利の存続に「使用」が要求されない。そのため、実施しない意匠についても関連意匠で登録し、権利範囲を拡張し、有効に存続させることができる。モデルチェンジにも対応し易い。
・部分意匠も駆使して多層的な権利網を構築し易い。
・容器の場合、内容物は権利範囲に影響を与えない。
② 苦手
・存続期間が出願日から25年と限られている。
・新規性を失えば、原則は登録できない。
・形状が同じでも物品が非類似の場合は別途権利化をしなければならない。
■ 商標のアドバンテージと苦手な点
① アドバンテージ
・10年毎に更新の半永久権。
・新規性を失っていても登録できる(製品の販売後に権利化の必要性が生じても対応可能)。
・著名性が立証できれば、防護標章による権利が獲得でき、出所混同が生じうる非類似の商品・役務まで権利範囲を拡大することもできる(ただし、権利行使は、同一指定商品(役務)について同一防護標章の範囲のみ)。
・広い指定商品役務を指定して出願権利化ができる(ただし使用していなければ事後的に取り消される可能性あり)。
② 苦手
・意匠と比較して登録性のハードルが非常に高い。
・指定商品役務の同一類似範囲に権利範囲が限られる。例えば、容器の立体商標の登録を受けても、指定商品に類似しない内容物への使用には権利が及ばない。
・登録商標について「使用」を必要とし、不使用取消審判や、権利行使の際の損害不発生の抗弁といったリスクが伴う場合もある。
意匠の登録査定率が高いのに対して、立体商標は、殆どの場合に商3条1項3号の拒絶理由が出される。立体商標については、識別力がないとの拒絶理由を克服できるかがポイントになる。商3条1項3号に該当しないとして識別力を認められて登録になったケースもあるが、通常は、使用による識別力の獲得、すなわち、使用された結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものと認められる状態にあること(商3条2項)を主張・立証して登録に至っているが、そのハードルは高い。
■商3条2項が適用された立体商標の登録例
立体商標で登録できれば、半永久的に権利を持続しうる点で大きなアドバンテージがあるが、通常は使用による識別力を獲得した状況でなければ登録を認められにくい。そこで、まずは意匠権を獲得しておくことで、模倣品の出現を防ぐことが重要である。近似する製品が出現することも防ぐのであれば、部分意匠や関連意匠によって重層的な権利を獲得しておくのが効果的である。そして、製品が全国的に周知になったと考えられる段階で、立体商標を出願して登録を狙うのが望ましいだろう。例えば、右に示す体温計(オムロンヘルスケア)の事例は、意匠権獲得後、その存続期間満了日の1年以上前に立体商標出願をし、拒絶査定不服審判まで争ったところ、意匠権の存続期間満了前に立体商標登録を獲得したものである。この事例では、意匠権に基づき模倣品対策を行っていたことが、立体商標登録の一因になっている。参考になる事例だろう。
2.平面形状(文字を含むパッケージ)
意匠実務上、新聞や書籍の文字のように情報伝達のためだけに使用されるものは模様と認められないが、ある程度図案化された文字であれば模様と認められている。そこで、文字を含むパッケージについて意匠による保護を検討する場合のアドバンテージと苦手な点を以下に整理する。
■ 意匠のアドバンテージと苦手な点
① アドバンテージ
・少ない文字数等の場合など、識別力がないものであっても登録可能性がある。
・文字の称呼や観念が類否判断に影響を与えることはないので、称呼等は全く異なるものであっても、文字の配置、大きさや形状が共通していれば、権利が及ぶ場合がある。
・類否判断において、基本的には文字の要部としての評価が高くないため、パッケージデザインなどの場合は、文字以外の要素について保護し易い。
・関連意匠や部分意匠を組み合わせて、権利範囲を任意に拡張していくことができる。
・権利範囲が指定商品に限定されてない。
・商標的使用の有無の議論は生じない。
② 苦手
・存続期間が出願日から25年間と限られている。
・新規性を失えば、原則は登録できない。
・文字ではなく、あくまで物品に付された“模様”として扱われる。そのため、同じ称呼が生じる文字であっても、形状が異なれば権利が及ばない場合がある。
例えば、右に掲載した「包装用缶」の意匠は、缶の正面全面に大きく2段に亘って文字を付した態様を模様として扱われて、登録を認められている。また、文字の大きさや位置関係が共通し、同じゴシック体調である点も共通するものの、異なる文字についても、関連意匠としての登録を認められている。缶の正面全面に大きく2段に亘って文字を付した態様であれば、文字の称呼にとらわれず、権利範囲に含まれる可能性がある。文字を使ったパッケージデザインの好適な保護事例と言える。
■ 商標のアドバンテージと苦手な点
① アドバンテージ
・10年毎に更新の半永久権。
・意匠権が切れた後にも登録可能。
・新規性、創作非容易性が登録要件ではなく、識別力があれば、文字のみで登録することもできる。
② 苦手
・商品の普通名称、特徴、キャッチフレーズ等は保護し難い。
・また、ロゴとして使用されるような頭文字1字、「EX」や「C3」のような商品の種別等に使われる文字は、極めて簡単で、かつ、ありふれた標章であるとして、識別力がないとして登録が認められない可能性がある。
例えば、以下の事例(「強力わかもと」のパッケージ)は、2019年のパッケージのリニューアル後、「W」の文字について、意匠出願と商標出願がなされたものである。意匠については、意匠に係る物品を「ラベル」と「包装用箱」とし、「W」のみを意匠登録を受けようとする部分として出願し、拒絶理由通知を受けずに登録を認められている。一方、商標については、指定商品を「薬品、サプリメント」として出願したところ、極めて簡単かつありふれた標章のみからなる(商3条1項5号)として拒絶されている。その後、指定商品を「胃腸薬」に限定し、周知性が認められ登録に至っている。意匠の登録日と商標の登録日とは2年程度の差があることから、商標登録が認められるまでの間は、意匠によって保護を図っていた状況である。
なお、意匠については、上述の通り、類否判断において、基本的には文字の要部としての評価が高くない。そのため、文字を含んだパッケージデザインと文字を省いたパッケージデザインは、類似と判断される可能性が高い。意匠は、パッケージデザインの文字以外の要素を保護し易いと言える。例えば、右の「包装用箱」の事例では、文字を省いたパッケージデザインについて、背景の模様が異なるだけでなく、手のカタチが異なるデザインが、関連意匠として登録されている。このように、関連意匠を駆使して権利範囲の拡大を狙うことも可能である。