意匠に関する欧州連合の指令および規則の改訂
欧州の「意匠の法的保護に関する指令」と「共同体意匠規則」は、約20年もの間、実質的に変更されてこなかった。そのため、欧州の意匠制度は現代社会の実情に適合しなくなっており、2022年頃から改正に向けた動きがあった。そして、ようやく2024年11月18日に、欧州連合官報において、産業デザインに関する法改正、すなわち意匠の法的保護に関する改正指令と、共同体意匠に関する改正規則が公表され、2024年12月8日から改正規則が施行された。
改正規則の主な変更点は次の通りである。
(1)名称の変更
「欧州共同体」という言葉が使用されることが少なくなったため、「共同体」の用語の使用が廃止された。例えば、「登録及び非登録の共同体意匠」は、「登録及び非登録のEU意匠」に変更され、「共同体意匠裁判所」は、「EU意匠裁判所」に変更された。
(2)意匠の定義の変更
技術の進歩に適応するため、意匠の定義がアニメーションを含むように拡大された。アニメーションには、動きと変化の両方が含まれる。
(3)製品の定義の変更
製品の定義には、物理的な物体であるか非物理的なものであるかにかかわらず、コンピュータプログラム以外のあらゆる産業的または手工業的なものが含まれる旨が明記された。製品には、内部環境を形成することを意図した物品の空間的配置、グラフィック作品またはシンボル、ロゴ、表面パターン、タイポグラフィック書体、グラフィカルユーザーインターフェースも含まれる。
(4)見本出願の廃止
見本は公開手段が限られる点や、見本提出の件数が少ない点から、見本出願が廃止された。
(5)「分類の単一性」要件の廃止
同一のロカルノ分類の製品に限定されることなく、複数の意匠を1つの出願に含めることが可能になった。一つの出願に最大で50の意匠を包含できる。
(6)付与される権利の拡充
規則第19条に規定されている意匠権者に付与される権利として、「製品を製造することを可能にする目的で、意匠を記録する媒体又はソフトウェアを作成し、ダウンロードし、複製し、及び共有し、又は他人に配布すること」を禁止できる権利が追加された。これは主に、3Dプリンターの技術進歩と利用増加を背景とし、3Dプリンターで複製可能な意匠を不正な複製から保護することを目的としている。
(7)「修理条項」の導入
「修理条項」とは、複合製品の修理に使用されるスペアパーツに対する意匠権の行使を制限するものであり、スペアパーツ市場を開放し、自由な競争を促すことを目的とするものである。これまで、共同体意匠規則の110条において経過措置として規定されていた。この条項により、複合製品の修理にのみ使用され、その元の外観を復元するために使用される部品のデザインは保護の対象外となる。