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判決にみる、発明完成時点及び発明者の立証における電子メール通信記録の有効性と注意点-特に、共同発明、共同出願について-

 電子メールの通信記録は、発明完成時点及び発明者の認定の有効な立証手段となり、逆に有効な反論材料ともなり得る。開発者間の電子メールは、これが記録として残ることに留意し、不用意な通信を行なわないことが必要となる。
(平成19年(行ケ)10278:ウエーハ用検査装置事件)

近年、複数の発明者による産学官等の共同出願が増加しています。

一方、特許法には、特許を受けることができるのは発明者であると規定されており(特29-1)、したがって、複数の発明者による共同発明の場合、発明者の全員が特許を受ける権利を共有することとなります。

共同発明の場合、特許出願は、発明者全員を発明者として出願しなければならず、そうでない場合、特許の無効理由となります(特126-1-6)。

特許法には発明者の定義は見当たりません。しかし、学説及び判例上、発明者とは、原則として、新規な着想の着想者、及び新規な着想を具体化した者とされています。したがって、単なる管理者、単なる補助者、単なる後援者や委託者などは、たとえ発明の過程に関与したとしても、発明者とはなりません。

ところが、特に、複数の開発者が関与する共同発明や共同出願の場合は、発明者の特定が困難な場合が発生し、訴訟に至るケースが散見されます。これは、一つには、発明がいつ完成し、誰がその着想をしたかの確定が困難なことによります。発明者が、自らが発明をしたと主張しても、従前は、それを立証する有効な手立てがなく、たとえ訴訟を行なっても、勝訴することが困難であったのが実情です。

このような状況を変えたのが、電子メールであり、次に紹介する判決です。                                                                                               この判決(平成19年(行ケ)10278)では、共同発明の発明完成過程において、開発関係者間で交わされた電子メールの通信記録が大きな役割を果たしました。事案は、A、B、Cの3社の開発協力による発明が、A及びBの2社のみで特許出願され、C社の開発担当者であるM氏が、特許無効を主張して提訴したものです。

判決文では、発明完成とされる時点直前に、M氏が開発関係者に送った数回の電子メールの通信記録が、次のとおり引用されています。

(1)『エリアセンサカメラで見るのが実用的と思います。・・上,横,下の3箇所から見るというのが妥当ではないでしょうか。』

(2)『エリアセンサカメラで見るように,方針を変えるというのはいかがでしょうか?』

(3)『ノッチの撮影は次の構成になるかと思います。・・・』

(4)『ノッチベベル面の撮影をラインセンサカメラで行うことを断念し,エリアカメラに切り替えた理由を記します。・・エリアカメラで撮影したノッチベベル面は,分解能はラインセンサカメラの場合に比べ劣りますが,十分なものが得られていると思います。』

そして、これら電子メールの後、M氏は、裁判所が発明完成時点と認定する、本件発明が記載された「仕様書」を作成しました。

判決は、発明の完成時点及び発明者の認定について、次のように判示しています。

「被告の担当者であるMは・・その後も仕様変更を行なう等して実験を継続し,その結果仕様変更前の構成が相当であるとの認識を持ち・・本件各発明が記載された仕様書を作成して,これをBに宛てて提示したものであり,本件発明は,この時点又はそれ以降に完成したというべきである。以上の経緯・・に照らすならば,本件発明の発明者にMが含まれることは明らかである。」

これにより、本件特許は、無効との判断がなされました。

従前、共同開発における発明の完成時点及び発明者の立証は困難を極めました。しかし、電子メールで交わされた通信記録は、通信日時及び通信内容が明白なことから、これらを一挙に解決する手立てとなることがあります。

近年、電子メールはその利便性のため、発明のアイデア段階から、研究開発関係者間で利用されることが通常となっています。しかし、こうした電子メールの通信記録は、発明の成立過程が問題となった場合、訴訟での有効な立証手段となり、逆に、有効な反論材料ともなり得ます。したがって、電子メールの利用に注意を払うと共に、これが記録として残ることに留意し、不用意な通信を行なわないことが必要となります。

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